どきどき☆スイーツ・パニック(その3-1)
公開:2011年05月28日――というわけなんだけど、と事情を説明してはみたものの、話す前からうっすらと予感していたとおり、書類の山は、実夏が部室に泊まり込んで、ひとりで整理することになった。
蘭は当然のように無反応を貫いていたし、ちょうどそのとき、膝に乗せた蘭のくせっ毛頭を三つ編みに編み込んで、自分とお揃いにしようと張り切っていたレムは、にこにこしながら編みかけの髪を持ち上げて、「ごめんなさい。忙しいんデス」の一言だけ。一縷の望みを託して振り返ってはみたものの、そこに居た千世も、「申し訳ありませんが、私の役目はあなたを守ることですので」と、にべもなかった。
山と積まれた段ボール箱の中身は、うんざりするほど雑多で無軌道だった。
年度ごとの予算配分の表に、部活や同好会の設立申請書に予算申請書、休部・廃部報告、日誌に議事録、スピーチの原稿、学校行事の企画書に報告書、生徒に提出させた反省文や誓約書、会報その他学内で発行された資料や刊行物――なるほどこれは生徒会の書類でしかあり得ないとうなずけるものもたくさんあったが、問題は、わけのわからない書類の方だった。
教職員の履歴書や学校関係者の素行調査といった物騒なものや、前後関係が分からない書類の一部、外国語らしい見たことのない文字で書かれたもの……はまだましな方で、書きかけで丸めて捨てたものを拾って広げたようなシワだらけのメモ用紙、鉛筆書きを消しゴムで乱暴に消した跡のある紙切れ、ペン書きされた一枚下の紙を持ってきたような、透明な筆跡が凹凸だけで残ったもの、印刷ミスやコピーミス、落書きに折り紙――およそ無意味に思えるものが、意味のわかる書類よりはるかに大量に含まれていたのだ。
だからといって、それらをゴミ箱に直行させるわけにはいかなかった。もし、ただの紙屑だと思って捨てたものが、重要な書類だったりしたら――? 鬼の首を取ったように大喜びした副会長から、何時間どころか何日でも、ねちねちと責められるのは目に見えていた。
そして、生徒会活動にまったくの門外漢である実夏には、それが紙屑に見える重要な書類なのか、重要な書類に見えるただの紙屑なのか、それとも紙屑に見えてやっぱり紙屑なのか、判断できるはずがなかった。
実夏にできるのは、せいぜい、どれも等しく無意味に思える紙の束に適当に目を通して、どのくらい無意味なのかを当てずっぽうで推測し、仮定にすぎない無意味さのレベルに応じて分別することくらいだったが、この作業はどう考えても無意味だった。無意味すぎて、作業を続けていると、ただでさえ乏しい勤労意欲が音を立てて削られる音が、耳元で本当にしているように思えてくるほどだった。
そのほか、引き取り手のあらわれなかった遺失物や、歴代の不届き者が持ち込んだ風紀違反の品々、あるいは、執行部員が忍び込ませてそのまま忘れてしまったらしき私物の数々も豊富に紛れ込んでいて、中には出すところに出したらプレミアが付きそうな珍品も含まれていたのだが――それはまあ別の話だ。
それらの資料に目を通すでもなく通すうち、実夏は、好むと好まざるとに関わらず、部活の力関係や学園の歴史に、いささかなりとも通じるようになってしまった。
運動部には予算優遇の形で多かれ少なかれ生徒会の息が掛かっていること、その生徒会ですら手出しに二の足を踏む<迷宮図書館>の不可侵性、この地が学園のできるずっと以前から忌み地とされてきたこと、魔性と疑われてこの地に幽閉された姫君の伝説や、学園の成立に貢献したという外国からやって来た錬金術師の話――
意外な情報に出くわすこともあった。たとえば、こともあろうに学園生徒会が、筋金入りのアナーキストであるはずの蘭を称賛した学園新聞を見つけたことがある。
